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月刊誌「機械設計№11」に「ロボットベンダー」記事掲載:

パイプ曲げシステム「WIN型ロボットベンダーシリーズ」_オプトン

1.はじめに

 工業用の多関節ロボットが発売されて30年ほどになる。当時のロボットの位置決め精度は
 1~5mmレベルで、関節剛性も弱く、主にマテハンや塗装に応用された。
 現在のロボットは、制御技術や減速機の精度向上とともに、位置決め精度が0.01~0.1mmレベルに向上してきた。
 しかし、当社ではロボットベンダーを開発する過程で、ロボット自体の問題点として、
 外部付加軸の制御制約や関節剛性の不足など、当初気がつかなかった問題に直面した。
 これらの問題解決に独自の制御ソフトを付加したり、ベンダーマシンと3次元測定機をシステム連携させるなどで
 解決しながら、10年あまりかけてWIN型ロボットベンダーシリーズとして実用化に辿り着いた。

2.パイプ曲げ加工の現状と課題

 塑性加工機の中でもパイプベンダーは、特に高度な制御技術を必要とする。
 工作機械のNC制御装置のようにベンダーのNC制御装置は市販されていない。
 したがって、独自技術が必要とされる分野で技術的進歩が進みにくい要因となっている。

 ①世界のパイプ加工は、古くから直交3軸式CNCパイプベンダーで行われてきた。
  NCパイプベンダーが開発されて30年余になる。
  その制御機構はパイプの曲げ角度をNCで制御する「曲げヘッド」、
  パイプをクランプしてひねり角度をNCで制御する「チャックスピンドル」、
  スピンドルを搭載してパイプの送り量をNCで制御する「キャリッジ」の3要素である。
  そのNC制御方式は公知の直交座標系である。

 ②NCパイプベンダーで直管パイプを量産加工するシステムは、一般的な手法として、
  ベンダーに直管パイプを自動供給するローダー装置、曲げ加工済のパイプを取り出す
  アンローダー装置をベンダーに取り付けることで簡単に省人化した高速曲げ加工ラインを実現できる。(図1)
  しかし、曲げ加工後のパイプに部品付け工程が必要な場合、取付け部品の位置決め用の専用冶具が
  必要になる等、段取りが複雑化して全工程の自動化が困難である。
  他の業界では、多品種少量生産にも関わらず高速化・省人化が進んでいるケースが多い。
  しかし、パイプ業界においては、曲げ加工後に部品付けをせざるを得ない現在の組立工法では、
  各工程の整流化が難しく、高速・省人化のラインを組むことは困難である。

図1.JPG


3.小型軽量の曲げヘッドを搭載したロボット型ベンダーの開発

 
 従来ベンダーは、直交3軸構成で同期剛性の高いNC制御を簡単に行える。
 しかし、多関節構成のロボットベンダー(図2)は、回転6軸のロボット本体と外部に1軸(曲げ軸)を付加しており、
 合計7軸の制御軸がある。この7軸の関節を制御して、直交3軸の従来ベンダーと同様に、送り動作、ひねり動作、
 曲げ動作を行う必要がある。我々は、先ずこのロボットベンダーを制御するソフトを「ロボベンキネマソフト」
 と称し、様々な試作研究や実験を重ねながら、5年余をかけて実用に辿り着いた。
 次に、「270°⇒360°増速ギア」と「小型軽量高剛性曲げヘッド」の2つの開発テーマに取り組み、
 1年余の試作と実験を重ねて実用に辿り着き、ロボットベンダー開発に必要な3要素を確立した。

図2.JPG


 ①ロボベンキネマソフトの開発
  パイプの設計図は、曲げパイプの中心を通る中心線が曲げポイントで交差する。
  パイプの加工形状は各交点座標Pn(Xn,Yn,Zn)で表現される(図3)。
  ロボットベンダーの曲げ制御は、従来ベンダーと同様に各曲げポイントの交点座標Pn (Xn,Yn,Zn)を
  NC制御装置にインプットすると、ロボットベンダーに必要な「送り」「ひねり」「曲げ」動作を、
  「ロボベンキネマソフト」により  ロボットの7軸動作に必要なデータに変換する。
  曲げヘッドの直線移動は直線補間制御で行い、  曲げヘッドの回転は円弧補間制御で行う。

図3.JPG

 ②増速ギア開発
  ロボットベンダーの曲げヘッドは、パイプを中心に360°回る必要がある。市販ロボットでは、
  この回転範囲が270°位しかないため、270°を360°に増幅する必要がある。そのために、
  増速ギア(図4)を開発した。増速ギアをロボットの最先端軸に取付け、その出力軸に曲げヘッドを
  取り付けることで、パイプを中心に曲げヘッドを360°回転できる様にした。

図4.JPG

 ③小型高剛性曲げヘッド開発(図5)
  ロボットベンダーは、多関節ロボットの先端に曲げヘッドを取付けて、高速・高精度で自由に
  振り回せなければならない。  曲げヘッドが重いと、曲げ加工動作の立ち上がりが遅くなったり、
  オーバーシュートして必要精度が保てない。そこで、様々な素材で曲げヘッドを作り、
  実負荷テストを重ねた結果、  重量と強度のバランスがとれるAl-Mg合金に辿り着き、1/3の軽量化に成功した。

図5.JPG

 ④干渉回避ソフト(図6)
  現在、実用化している干渉回避方法は、割り込みソフトを使い、マニュアルで逃げルートを指定しているが、
  マニュアル指定をせずに自動回避したいという要望が多くなってきたので、現在、新自動回避ソフトの開発に
  取り組んでいる。
  パイプ製品の完成図(曲げたパイプに枝管やクランプ金具が付属)をマスターデータとして入力し、
  加工中に曲げヘッドに干渉する障害物があるかを常にスキャニングしながら加工を進める。
  曲げヘッドが障害物に近づくと、自動的に干渉回避の動作を行わせる。

図6.JPG

 ⑤ベンダーロボットによるローディング・アンローディング
  ロボットベンダーは、パイプ供給装置上のパイプを取り、曲げたパイプを所定の位置に置く動作ができる。
  これにより、従来の直交3軸ベンダーシステムにおける複雑なローダー・アンローダー装置が不要になり、
  ロボットベンダーシステムの方が従来ベンダー方式より総設備費が安くなり、好評の一因となっている。

4.ロボットベンダーでの高効率生産例

  従来の3軸直交型パイプベンダーは、部品の組付けられていない直管パイプの曲げ加工では最高性能にきている。
  この方式で直管パイプに枝管や部品を組付けてから、最後に曲げる工法が実現できれば理想であるが、
  ベンダー本体の構成要素の自由度がないために、ローダーが複雑高価になり現実的ではない。
  ロボットベンダーを採用することで、曲げヘッドの逃げ動作が自由になり、
  直管パイプに部品組み付けをした後の工程で曲げ加工が容易にできるので、ラインの生産性は飛躍的に向上する。
  実例として、生産効率が2~10倍程度になった実績が多々ある。

 ※実例1:小型ロボットベンダーシステム  エアコン配管ラインに採用

  従来ベンダー加工方式(図7)をロボットベンダー方式(図8)に切り替えたことにより生産性が約4倍に上がった。

  従来ベンダーによるパイプ曲げ後のアセンブリする工程  
  必要検具数5個 (図7)

  図7.JPG

  ①検具1、2、3の各パイプの曲げ加工をする
  ②検具4の中で検具1、2の2本のパイプとアキュムレータを仮組み・ロウ付けする
  ③検具4でロウ付けされたアセンブリパイプを検具5に移動
  ④検具5に検具3のパイプを移動
  ⑤検具5のパイプとゴムホースを仮組み
  ⑥ゴムホースの本締め
 
 ロボットベンダーによる直管アセンブリパイプの曲げ工程
  必要検具数2個 (図8)

図8.JPG

  ①検具1の中に、曲げ加工前のパイプ1・パイプ2パイプ3・ゴムホース・アキュムレータを入れ仮組み・本締め
  ②ローダーにアセンブリパイプを投入
  ③ロボットベンダーがパイプ端から干渉物を避けながら順次曲げ加工をする
  ④検具2または、パイプ測定用非接触3次元測定機で初期立ち上げ検査・量産中の抜き取り中間検査を行う

 ※実例2:大型ロボットベンダーシステム  
      φ150自動車シャーシパイプラインに採用

  太くて重いパイプの曲げ加工の多品種少量生産では、人手でパイプを持ち上げてベンダーに投入したり、
  重い曲げ金型を頻繁に段取り換えする必要がある。
  これらの問題を一挙に解決する大型ロボットベンダーの開発に取り組んでいる。
  パイプ直径MAXφ150用の曲げヘッドを地上に置き、可搬重量200kgのロボットでパイプの送り・ひねりと金型交換を行う。
  完成したパイプを全数測定するロボット式3次元測定機を組み込んだパイプ曲げ加工用の大型生産システムを受注し、
  1号機を来春に納入する予定である。(図9)

図9.JPG

  ①曲げ加工システム

   曲げヘッドを地上に置き、6軸の大型ロボットにパイプチャックと金型交換チャックを取り付け、
   ロボットがパイプの送り・ひねり・ローディング・アンローディング・金型交換を自動で行う。
   金型交換は生産が終了した金型をベンダー本体から取り外し、金型台車1に移動させる。
   次に使用する金型を金型台車2からベンダー本体にセットする。作業者は金型を交換する必要がなくなり、
   今までの段取り時間を1/10程度に短縮し、生産性アップに大きく貢献できる。

  ②全数測定システム

  曲げ加工完了後、ロボットベンダー自身が曲げたパイプを測定台に置く。
  3次元デジカメスキャナーとパイプチャックを持った測定用ロボット(図10)が、パイプの指定された箇所を測定し、
  マスターデータの公差と照合して合否判定を約2秒以下で行う。
  3次元デジカメスキャナーの開発を着手して20数年になり、納入実績を重ねてきたが、近年、高輝度LEDが発売され、
  新型3次元スキャナーに採用したことでランプ切れがなくなり、さらにスキャナー内部でクリーンエアーを発生させて、
  エアパージをしたことでメンテナンスフリーにすることができた。今回、ロボットに搭載し、
  激しい動作をする全数検査に耐えられると判断して採用することにした。

図10.JPG

5.今後のロボット応用の開発方針

 各社から発売されている最新鋭の各種生産設備は性能的、デザイン的に究極域にきている。
 一方、工業製品は組立工程を経て出来上がっているので、品質のばらつきが発生する。
 LEDを搭載した非接触式3次元デジカメスキャナーの新シリーズの応用先としては、
 第一に組立ライン、プレスラインを想定している。当社は、3次元デジカメスキャナーを生産ラインに直接取り付けて
 ライン同期で3次元検査を行ったり、ロボットの先端に3次元スキャナーを取り付けたりして、
 大型製品の組立現場でロボット式3次元測定機としての使用を見込んで、シリーズ化開発に取り組んでいる。(表)
 なお、測定した検査データは、検査部分を0.01mm単位のXYZ点群のデジタルデータでマスターと照合検査している
 (図11)。 このデータは問題点分析がしやすく、長期保存しておけばトレーサブルデーターとして利用できる。

図11.JPG

6.まとめ

 35年前、偶然のチャンスで3軸直交型のNCパイプベンダーを開発することになった。
 このベンダーが1977年に日刊工業新聞社より「日本十大新製品商品賞」の栄を受けた。
 この受賞をきっかけに制御盤メーカーからベンダーメーカーに転身した。ベンダーが予想以上に順調に売れ始めた段階で、
 売れ止まった時に次の商品の柱がないと大変なことになると考えて、20数年前に次の開発テーマをいろいろ模索した。
 その一つがロボットベンダーであり、もう一つのテーマが非接触3次元測定機であった。
 小さな会社がベンダーと3Dの2本の柱を目指して、苦悶しながら開発に取り組んできたが、
 今日、パイプベンダーシリーズは直交シリーズ、ロボットベンダーシリーズとも順調で、当社のベース商品として健在である。
 一方、非接触3次元測定機も近年高輝度LEDの出現で完成度が一気に高まった。
 この3次元スキャナーは広い分野で興味を持っていただけることが展示会やその後の引合い状況から分かってきた。
 今後の3次元スキャナー応用は、パイプ加工業界や自動車業界等の産業界用測定検査装置シリーズと、
 整体治療・エステティック・3Dプリンター業界等の民生業界用測定検査装置シリーズの2本に分化させ、
 それぞれの業界ニーズに特化した組込ソフトを共同開発等で進め、各業界用の商品開発を進めていく。

著者:株式会社オプトン 

システム開発部 メカトロ担当 大矢 博之
        NCソフト担当 伊藤 裕規
        NCハード担当 尾形 治朗

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